2009年9月24日
もう一つの梧竹(篆隷6) 篆隷のバリエーション
梧竹85歳、「門に俗客無く、唯だ風月のみあり」4幅対。横浜の海老塚家別邸、朝爽夕佳亭滞留中に座敷のふすまに書いた。その座敷は、近頃の空気清浄機よりも強力に浄化された、すがすがしい空気で満たされたに違いない。晩年に到達した至境を表徴する名作の一つである。
85歳の書。80年の蓄積のすべてがその内に包蔵され、表面の技や余分の装飾はきびしく削り去って、ひたすら求めるところは内なる精神性の充実。そこに打出されたものは、人類未到の心象表現の世界、深奥の象徴的景観だった。梧竹の篆隷作といえば臨書の数が多い。阮元『積古齋鐘鼎彝器款識』による古器銘臨、馮雲鵬・雲鵷」『金石索』による漢鏡銘臨、漢碑を中心とする古碑碣臨など、レパートリーは多様多彩だ。すでにこのブログでも、そのいくつかを紹介したが、時に応じて今後も紹介したいと思っている。
梧竹は80歳代のはじめ、三日月観音堂・梧竹村荘建立のために、各方面との折衝や建設費用調達のための揮毫物などで超多忙だった。ちょうどその時期に生まれた八分系の隷書の一体がある。梧竹書進化の時系列上で、前にも後にも類似のものを特定しがたい、いわば突然変異的な書風だ。この一群の傑作は、見逃すことの出来ない独特のあざやかな完成度を示している。同じ時期に残された数多い臨書作の中に、西狭頌、同五瑞図の臨書があって、その影響を考えたい気もするが、少し無理だろうかとも思う。
次に掲示する3点は81・82歳のとき福岡県大川市にあった深川家天福閣で揮毫したもので海老塚的傳梧竹堂の旧蔵、「卍事」双幅は徳島文学書道館の蔵となっている。
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