2009年7月 9日
桜岡公園----時代を跳び越えるモダンな篆書
「さくらおか・こうえん」のモダンな文字、これを書いたのはいつのこと? 134年もむかしの1875年、武士の意地を捨てずに刀を腰に手挟んで歩く人もいた時代だ。今だったら、もっとモダンな文字が書けるんでしょうか?
佐賀県小城市は梧竹の生誕地だ。佐賀市と境を接する小城鍋島藩の城下町で、九州の小京都とよばれている。
公園は現在は小城公園といって、平成2年「桜の名所100選」に選ばれ小城のシンボルとなっている。初代藩主鍋島元茂が鯖岡(さばおか)という小丘に桜を植えて桜岡と改称し、2代直能が吉野山から桜を移植して池水庭園を造ったのに始まった。明治8年に公園法の施行があって桜岡公園となり、昭和26年には鍋島家から小城町に移譲されて小城公園となった。
梧竹は旧藩主直亮の遺志をうけ、川副二水、太田北山、星野寛禎3氏とともに公園建設に尽力し、明治8年8月に完成。藩邸の御高札に公園の二大文字を書いて建設を告げたと記録がある。碑に刻んだのはその文字だろうか。
碑石は高さ220cmほどの卵形の自然石、そのうえ台石が小ぶりで拓本を採るのには随分苦労する。「桜岡公園」の左に「中林隆経書」、碑陰に「明治八年八月建」、いずれも楷書の刻字がある。
梧竹49歳の篆書とはたいへん珍しい。佐々木盛行がこの碑は晩年の書といったが、そんな見間違えが不思議でないほどに、時代を大きく跳び越えるモダンな篆書だ。線質の差異はあるが、晩年85歳の「楚公鐘銘」臨書(ブログで紹介の予定)などとよく似た風合いをもっている。
梧竹はこのような書体を、どんなデータを使って書いたのだろうか。私の架蔵中に、表紙もなくなり虫も入ってボロボロ状態の、細井廣澤「萬象千字文」がある。近所の古書店で偶然に入手したものだ。江戸時代に流行した篆書字書といえるのではないか。この本が、小城の勝妙寺石門、そのほか数点の書跡の読解にあたって有力な拠り所となった。その体験から、梧竹が使用した篆書字書の一つが細井廣澤「萬象千字文」であったと私は推測している。
(注1)細井廣澤(1658〜1735)、名は知慎、字は公謹、通称は次郎太夫、廣澤、玉川などと号した。江戸時代中期の人、朱子学を学んで柳沢吉保、徳川光圀に仕えた。北島雪山から文徴明の書法を学び、唐様書法が王羲之以来の正統の筆法を伝えるものと主張し、唐様書家として一世を風靡した。『紫微字様』『撥鐙真詮』『観鵞百譚』など多くの著書がある。
(注2)小城公園には公園碑の他にも梧竹筆の碑石がある。
信哉 86歳 梧竹筆塚内
和同 46歳 梧竹筆塚内
幟台石? ? 梧竹筆塚内
後西天皇歌碑 49歳 公園最頂部
八重一重歌碑 49歳 公園最頂部
甲戌烈士之碑 69歳 公園内
燈籠銘 62歳 岡山神社
鳥居銘 62歳 岡山神社
このほか市内、とくに旧町内には碑石、神社の掲額などが数多くある。
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