2009年5月14日
春風動春心
梧竹の書は80歳を越えて、技(かたち)の書から精神(こころ)の書へと大きく飛翔する。筆も超長鋒筆(ナマズの髭)から短鋒筆へと大きく転換をとげる。
絶え間なくヴァージョン・アップやモデル・チェンジ、スクラップ&ビルドを重ねる梧竹の書。だがスクラップしたものを捨てることはない。幼年期に習いおぼえた顔法、唐様、世間の大流行をみる前にすでに離脱した六朝、すべては豊かな滋養として最晩年の心の書の中に活きている。郷里小城の49歳筆、宝地院山門木額は、一見80歳代の書と見まがうばかりだ。梧竹の書が巨大なトータルといわれるゆえんだ。
梧竹の草書は連綿草から独草体の表現に帰っていく。その独草には、連綿草で掌中のものとした、文字と文字の緊密な連携が組み入れられ、ストーリー性さえ感じさせる。1行目を2字ずつに区切って部分図に示したが、文字と文字とが互いに手をさしのべて、不即不離の姿を創り出している。70歳代「過渡期」と比べると著しい進化が実感される。
文字間の連携は、縦の関係に止まらず、横の連携にも注目しなけれなならない。下図に書の上部と下部を取り出した。左右の文字の緊密な連携は梧竹書の大きな特色で、日本伝統の美意識を継承するものと私は考えている。
春風 春心を動かし 流目 山林を嘱(のぞ)む
山林 奇采あり 陽鳥 清音を吐く
この詩は『楽府詩集』巻44「子夜春歌20首」にみえる。私のみたテキストは第3句「山林奇采多し」としている。
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