空眼―『内閣秘伝字府』のこと

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明の黄ゴウ・黄鉞兄弟『内閣秘伝字府』の翻刻本が、わが江戸時代に流布された。永字八法を書の基本として72法に展開し、その名称や筆法を解説したものだ。なんと梧竹が晩年にこの本の解説書をつくろうとしたらしく思われる。自由奔放ともいいたいほどの筆をふるった梧竹がこんな伝統的な鹿爪らしい本をと、信じられないような話だが、現に梧竹手書きの原稿(らしきもの)が私の文庫にある。

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華.jpgこの本には「空眼」という語がたびたび出る。上図の「鸞」の解説にも「空眼甚だ分明なり」とある。字書にも見つからないし、書論の中でもあまり見かけない単語だ。ご存じの方のご教示をお願いしたい。 

ともかく使用例から、「空眼」は文字の中で筆画の 間にできるスキマと考えてよさそうだ。王字のように閉じていなくても、田字のように閉じていても、また三角形でも四角形でも円形でも、スキマであればOKのようだ。

「空眼」を大切にするのは梧竹書の特色の一つでもあるが、78歳の「華」字に至っては神業に近い。一瞬の間に駆け抜け走り去った筆のあとに、しっかりキープされた小さな三角形の「空眼」が10個あまり。梧竹のハイテクが造り出した、まさに「空眼」満載の一字だ。  

○「華」の草書体は、ソの字形の次でカネザシのように直角に折れるのが多いが、このように十文字につくった作例が張旭などにもみられる。  




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