連綿草書 その2

張帆s桜.jpg大壁紙長条幅の連綿草書、11月22日、2月26日に続き3幅目は諸葛穎「春江花月の夜 煬帝に和す」。

 

 

 

張帆新s.jpg 帆を張って柳渚を渡り
 纜(ともづな)を結んで梅州に隠る
  月色は江樹を含み
 花影は船楼を覆う

渚は柳の新芽、中洲は梅の満開。中空には月。中洲につないだ船楼に映る梅花の影が印象的。金冬心の絵にでもしたい早春の川辺の美しい夜景だ。

書道展の紹介記事で必ずといっていいように出会うのが「個性ゆたか」という評語だ。これほど世間にあふれかえっていても「個性」なのか? 国会答弁風には、「ゆたか」とは事実をいったまでで「よい」とか「わるい」とかはいっていないと、いいわけの準備も万全。一口に個性といっても、筆者自身の個性、所属団体の個性、その時代に流行中の個性、(めったとないが)書の題材による個性、(よくあるのは)書法を知らない個性(別名デタラメ)などさまざまだ。評論家諸氏はその辺りもきっちり解説してほしいものだ。 

「書の題材による個性」とは象徴的心象表現ということでもある。これが梧竹書業の最大の特色でもある。この作では早春の夜の川波の冷たい感触など、諸葛穎の詠う風景を巧みにとらえている。長条幅連綿草書のそれぞれがその詩に応じ、春の詩は春、冬の詩は冬、蘭亭集の詩は道教的など、「書の題材による個性」がゆたかに表出されている。昭和10年に法書会・西東書房から出版された「中林梧竹翁筆草書三十六幅帖」はその意味で絶好のテキストだ。このブログですべてを紹介することはできないが、UPする幅ごとに、じっくりと鑑賞していただきたい。

梧竹の連綿草書は、王羲之書法への創造的な復古、日本的な美感覚による表現、立体的表現の確立、梧竹くずし(独自のデフォルメした草書体)の開発、ジグソウ・マジック(別稿で解説)の技法など、多種多様なハイテクを結集して成立した芸術書というべきだ。ハイテクのそれぞれについては時にふれて解説したい。

梧竹書業の進化過程にそって大観するなら、連綿草書の一時期は、技の書から心の書へ、象徴的心象表現への移行を期しての、七〇歳代末までの修練の最終的な総括であり、八〇歳代の完成期への周到な準備であったとみることができる。

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