2008年12月 4日
ブエンの王羲之
自詠詩
春首平安音信通
飛來片影落樊籠
誰知今古人同趣
王氏換鵞中氏鴻
春が来て 平安を知らせる便りが届く
鳥のように 鳥籠の上に飛んで来た
古えの王羲之と 今の私と 趣向は同じ
彼は鵞鳥と 私は鴻と 書を交換するのだ
詩は、王羲之の換鵞の話をふまえて、「自分の書は羲之とレベルを等しくする」と詠っている。
換鵞(比田井南谷『中国書道史事典』から)
ある道士がみごとな鵞鳥を飼っていた。羲之はそれを見に行き、大変気に入ってぜひ譲ってくれといった。道士は、私に道徳経を書いてくれるならば、この鵞鳥を全部差し上げましょうという。羲之はよろこんで道徳経を書き上げ、鵞鳥をもらって飼い、大変楽しんだと伝えられる。
比田井社長が「梧竹さんは自分が王羲之になろうと思ったのでしょう」という。そう決心したのは 何歳ごろだったのだろうか。70歳代の終わりまでには、自分は羲之に並んだとの自覚に達している。80歳を過ぎるころには、羲之を超えようと心を決めたに違いない。
人々は、梧竹を「ブエンの王羲之」とよんだ。ブエンは漢字で無塩。塩を使わない、ナマの。つまり生身の王羲之というわけだ。
『梧竹堂書話』に書いている。
古人を奴(下僕)とする者は少ない、たいていは、古人の奴(下僕)となっている。古人を奴(下僕)とするに至れば、書は不朽の盛事だ。
ふつうに 解釈
書を学ぶ者は、師匠につき、古典を学ぶ。本気に学ぶなら、師匠を超え、古典を超えて、自己の書を創造しなければだめだ。超えることができない者は、生涯を「奴書」で終ってしまう。
もう少し長い目での 解釈
弟子が師匠を超えないなら、書は年月とともに退化と転落をくり返すばかりだ。
梧竹の告白としての 解釈
古人といったのは、王羲之のこと。尊敬をこめてこう表現したのだ。
梧竹が「奴としよう」としたターゲットは、王羲之だった。王羲之は、梧竹が超えようとした、最大最強のハードルだった。
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